岡田彰布監督の「普通にやれ」がもたらした奇跡的な変化とは?


阪急阪神東宝グループ > 阪急阪神ホールディングス > 阪神電気鉄道 > 阪神タイガース ポータル 野球 阪神タイガース(はんしんタイガース、英: Hanshin Tigers)は、日本のプロ野球球団。セントラル・リーグに所属する。本拠地は兵庫県西宮市にある阪神甲子園球場。 略称は「阪神
265キロバイト (40,467 語) - 2023年10月2日 (月) 04:45


「岡田監督の『普通にやれ』という言葉には、チームの戦術や意識の統一を表しているように感じます。普段の練習や試合で、一つ一つのプレーに集中し、最善を尽くすことが大事なのだと教えてくれる言葉ですね。そんな彼の指導がチームに変革をもたらしたのでしょう。」

聖地のライトスタンドは「極楽浄土」だった

 阪神がリーグ優勝を決めた9月14日、私は甲子園球場ライトスタンドにいた。選手たちが飛び跳ねて喜びを爆発させている。岡田監督が宙に舞っている。そんな光景を遠くから眺めながら、ワーだのオーだの叫びながら拳を握りしめたり、腕を振り上げたりしていた。岡田監督のユーモラスなインタビュービジョンを振り返って聞いた。

 そのとき、「ああ、このまま死んじゃってもいいな」と思った。秋風が爽やかに吹く聖地のライトスタンド。何万人という人たちが、最高の笑顔や嬉し涙を浮かべながら幸せを共有している。なんの信仰心もない私だが、「ここが極楽浄土です」と言われれば、疑うこともなく信じたであろう。それくらい浮世離れした穏やかな空間だった。

 優勝監督インタビューとしてビジョンに大映しにされた岡田監督は、口調も表情もいつもどおりだった。選手たちに言い続けたとおり、自身も「普通にやったらええ」を貫き通したのだろうか。しかし最後は11連勝という「普通」ではない強さでゴールを駆け抜けた。

「力を出し切れ」でもなければ、「思いっきりやってこい」でもない。なんだか脱力感さえ漂う「普通にやれ」。しかし、不思議チームの集中力を向上させる言葉になった。

 その真意をスポーツ紙の岡田語録に倣って括弧書きで補足すると、「(お前の力はわかっている。成功・失敗の確率だって織り込み済みだ。特別なことは求めていない。だから)普通にやれ」だ。

 近本、中野、森下、大山、佐藤、ノイジー、坂本、木浪。こと野手のスタメンについては、最後はソラで暗唱できるほど固定された。野手の一、二軍入れ替えも極めて少なかった。岡田監督にとって、シーズンを戦う「戦力選考の締め切り」は春先までだった。

 今季戦力として生き残った選手には役割が与えられ、結果についてもある程度長い目で見てもらえる。降格の不安に押しつぶされることはない。だから、保身だけが目当てで自分のプレースタイルを変えたりする必要もない。自分自身の「普通」に集中できる。

 しかし「戦力の固定化」によってチームの不安感を除けるのが「陽」であるなら、「陰」もある。今年の戦力に食い込めなかった野手は、1年間「冷や飯喰い」となる上、一軍試合出場という成長機会を失うため実力差はなお開く。先日、山本、髙山、板山、北條といった野手たちが戦力外通告となったが、一定の年齢にさしかかる選手たちにとって「春で締め切り」は厳しい現実だ。

「補う力」と「巡り合わせ」を引き出した不調放置

「オーダー固定化」の弊害として、不調の選手を使い続ける「無駄」も指摘された。調子や能力をもっと短期間で見直し、調子のいい選手や成長が見込める選手を使ったほうが「瞬間最大出力」を高め、得点力を高レベルに維持できる――そういう主張だ。

 正しそうだが、「ぶっちぎり優勝」という成果を前に、本当に正しいかどうかは疑問だ。確かに今季の阪神は森下、佐藤、ノイジー、大山らが大きく調子を落とす時期があった。森下や佐藤はスタメンから外し、二軍に降格させたこともあったが、どちらかというとメンタル面の問題を早く立て直そうという意図があってのもの。そうでない調子落ちは、放置することが多かった。

 だが、「調子落ち放置」をしても、得点力は低下しなかった。大連勝やチームの好調を止める要素にもならなかった。調子が悪い選手、その時々でアウトになりやすい選手がいても、不思議と打線全体の調子を悪くするマイナス作用はもたらさなかった。

 優勝前の11連勝中のノイジーが好例だが、二死のチャンスで凡退しチェンジになってばかりいる選手がいても、それが「いい切れ目」となって、そのあと「得点できる巡り合わせ」になる、そんなことがしばしばあった。

「安定による強さ」はポストシーズンも変わらない

 エラーした直後にゲッツーを取る、バント失敗の後に好走塁、無死満塁で三振の後にタイムリー……今年の阪神はシーズンを通して、「誰かの失敗を別の誰かがカバーする野球」をした。シーズン中盤けっこう長く佐藤の不調時期は続いたが、大山を中心に他の打者がカバーした。逆に終盤大山のバットが鈍ったときには、絶好調の佐藤がひとりで打線を引っ張った。

 失敗もあれば不調もある。それは普通のことだから、極端に深刻に捉えることはない。近くにいる者がカバーしてやれば、チームとしての力は低下しない。むしろ「補い合う力」によってチームの結束は強まる。迷いや悩みをひとりで背負い込まず、目の前の試合、目の前のボールに集中できる。結果、安定的に勝ち続けるチームになった。

 岡田監督が築いた「普通にやる」はなかなか奥が深い。しかし、そんな岡田野球が短期決戦であるクライマックスシリーズでも通用するのか。長い長い「待ち時間」、ファンの間では退屈しのぎにそんな話題が飛び交う。

 過去、ポストシーズン戦績が芳しくないのは事実。しかし、岡田監督も以前のままではない。それはこのシーズンでよくわかった。だから、「普通を貫く」という理想を極め、もう一度、阪神ファンを「極楽浄土」へと導いてくれるものと私は信じている。

 チームは最後まで快進撃を続けましたが、文春野球の阪神チームは残念ながら今季も最下位をひた走る結果となりました。「終わり良ければ……」でいい締めとさせてもらえたら最高です。下にあるとおり、オリジナルサイトでポチッと応援の1票をお願いします。今季も文春野球コラムペナントレースで私の記事を読んでいただき感謝いたします。

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優勝監督インタビューの岡田彰布監督を超満員のタイガースファンが見つめる ©鳴尾浜トラオ


(出典 news.nicovideo.jp)